遺言は書けばよいというものではない
最近、相続や終活が大きく取り上げられるようになりました。
葬祭業者が終活関連のイベントを開催したり、遺品整理業なるものができたり、私たち士業も相続業務に力を入れたり、マスコミも盛んに取り上げるようになりました。
なかでも遺言がいま注目されているのではないでしょうか。
これまで遺言というと資産家が書くものと思われていましたが、今は遺言についての知識や情報が広まり、庶民でも遺言書を書くようになってきました。
当所も遺言に関連した業務、例えば遺言書の作成指導や手続きのサポートを行っていますが、最近、遺言は”両刃の剣”だと思うことがあります。
それは、遺言書があるがゆえに、却ってトラブルが生じることがあるからです。
考えてみれば、特定の相続人に全財産を相続させるとか、赤の他人に全財産を遺贈するという遺言を書いたら、揉めるのは当然ですよね。
しかも、遺留分という面倒な問題が生じてきます。
遺留分とは
遺留分というのは、遺産のうち兄弟姉妹以外の法定相続人に認められる最低限の取り分のことをいいます。
この遺留分という制度があるのは、先程書いたように、特定の人だけが遺産がもらえて、他の法定相続人がもらえなくなるという不平等を防ぐためです。
ですので遺留分について知っておくことはとても重要です。
では、遺留分が侵害されたらどうすればいいかというと、まず遺留分侵害額請求(旧遺留分減殺請求)を行います。
この請求は、口頭でもいいのですが、証拠が残らないので、大抵は配達証明付きの内容証明郵便にして請求相手に送ります。
しかし、相手が請求を無視して応じない場合があります。
その場合は、家庭裁判所に遺留分侵害請求の調停を申し立てます。
それでも解決しない場合は、訴訟(裁判)で解決するしかありません。この場合、管轄は家庭裁判所ではなく地方裁判所となります。
遺留分侵害額請求にも時効がある
遺留分侵害額請求権には時効があります。
その期間は、相続と遺留分侵害の事実を知ってから1年間です。
被相続人が死亡したことと、遺言や遺贈によって遺留分の侵害を受けたことを知ったら、1年以内に遺留分侵害額請求をしないと遺留分を取り戻せなくなります。
また、遺留分侵害額請求権には除斥期間というものがあります。除斥期間とは、その期間が経過することによって権利が消滅してしまうものです。
除斥期間には中断もなく、その期間が経過したら権利が失われます。
遺留分侵害額請求権の除斥期間は、相続開始後10年間です。被相続人が死亡してから10年が経過すると、その時点で遺留分侵害額請求はできなくなります。
いかがでしょうか?
遺言は簡単に書けますが、なかなか面倒なものであることがおわかりいただけたと思います。
遺留分などの法律の知識もないままに安易に遺言を書いたりすると、相続人や第三者などを無用な争いに巻き込むことになりかねません。
ですので、これから遺言を書こうとする人は、自分が死んだ後々の事も十分配慮して書かねばなりません。
法律の知識も持たず一時の感情にまかせて書いた遺言は、人を傷つけることになりかねません。
私が両刃の剣と言ったのはそういう意味です。
よかれと思って書いた遺言が、自分の死後、禍根を遺すことにならないよう気をつけたいものです。
遺留分制度の改正
ところで、この遺留分制度ですが、改正されて2019年7月1日から実施されました。
そのポイントは次の2点です。
1.遺留分を侵害された者は、遺贈や贈与を受けた者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の請求をすることができる。
2.遺贈や贈与を受けた者が金銭をただちに準備することができない場合には、裁判所に対し、支払い期限の猶予を求めることができる。
なぜ、このような改正が行われたかというと、遺留分減殺請求権を行使すると、相続財産が複数の相続人の共有になります。相続財産が土地や建物の場合、持分何分の1というような共有になると、ケーキのように切り分けることができませんから、遺贈や贈与を受けた者も遺留分を侵害された者も双方が困ることになります。そこで、侵害された遺留分に相当するものを金銭(お金)で請求することができるようにしたのです。
しかし、いきなりお金を請求されても、すぐには払えない場合がありますので、その際には、裁判所に対して支払い期限の猶予を求めることができるようにしたのです。上記2はそういう意味です。